組織と人

リモートの部下は、見ようとするほど見えなくなる

「兆しと振る舞いのマネジメント」で、顔が見えない関係を設計する3つの施策

リモートワークでは、部下の困りごとや不調の兆しを以前のようには拾えず、「見える化」を進めるほど、部下は情報を隠すようになる。見える化は強制と受け取られやすく、強制は隠匿を生む。同じ空間で自然に入っていた情報が失われた以上、「管理職は見て気づく」という前提そのものを変える必要がある。本稿は「兆しと振る舞いのマネジメント」を提示する。管理職が先に自分を開く振る舞い(情報のオープン化、部下への相談、雑談の話題振りと自己開示)によって、部下の反応として兆しが現れる環境を設計する。読み終えたとき、読者は「見る仕組みを足す」発想から、「開く振る舞いを先に変える」発想へ移ることができる。

リモートの部下は、見ようとするほど見えなくなる

机を並べていた頃は気づけた「危なそう」という感覚が、画面越しになると働かなくなる。出社に切り替える企業が増える傾向も見られるが、顔が見えない関係が完全になくなるわけではない。中間管理職に求められているのは、「管理職は見て気づく」という前提を、「見えない前提で、気づける環境を設計する」へ反転させることである。

なぜ、顔が見えない時代の中間管理職は「しかたがない」と言えないのか

顔が見えない関係は、出社回帰が進んでもなお多くの職場に残り、中間管理職は「しかたがない」と言っていられる立場にない。

出社に切り替える企業が増える傾向が見られる。パーソル総合研究所の調査(2026年7月実施)では、正社員のテレワーク実施率は21.4%で前年から1.1ポイント低下し、「原則出社」の指示は24.6%と2年連続で増加した。一方で、テレワークの実施者の81.6%は継続を希望している[注1]。東京都のスムーズビズ登録企業(回答995社)を対象とした調査(2026年5月)でも、約3分の1の企業が出社回帰の動きを示す一方、約7割の企業がテレワークを実施している[注2]。出社へ戻る動きとテレワークが残る状態が併存しているのが、現状である。

加えて、現場の実感として、仕事の場でもフラットな関係性を求められる場面が増えている。フラットな関係では、メンバーは仲間のように率直にコミュニケーションを取り、その中でリーダー的な役割を担うのが中間管理職だと言える。立場の権威ではなく、関係性の質がチームを動かす土台になる。

ところが、顔が見えない環境では、この関係性の質を支えてきた手がかりは減る。同じ空間にいれば、電話の口調、同僚との何気ない会話、表情、席を立つタイミングなどが、意図せず耳や目に入る。管理職は、それらを無意識に統合して「危なそうだ」と感じ取ってきた。画面越しでは、やりとりは文字が中心になり、会議に参加しても顔を出さない場合もある。対面に比べて、文字や音声だけのやりとりは伝わる手がかりが少ないことは、メディアの豊かさに関する古典的な理論でも指摘されている[注3]。

それでも、部下が今どのような感情にあり、どこで困り、業務が袋小路に入っていないか、パフォーマンスが落ちていないかを見極める責任は、管理職に残る。見えない中で、どう兆しをつかむのか。ここに、本稿の問いがある。

兆しと振る舞いとは何か。なぜ「見える化」ではなく、振る舞いが先なのか

兆しは、見える化の仕組みで集めるものではなく、管理職が先に開く振る舞いへの反応として現れるものである。

本稿では、次のように定義する。

用語定義
兆し顔が見えず、コミュニケーションがメールやチャット中心で、ときどきオンライン会議があっても顔出しはしない、という関係の中で、部下が今どのような感情にあり、どこで困っているのかを、さも見えているかのように読み解くこと
振る舞い管理職自身が意図的な振る舞いを先に行うことで、その反応として兆しを感じ取れる状態をつくること

兆しと振る舞いは、顔が見えない時代の環境設計に必要な要素である。

見える化は、なぜ兆しを隠すのか

見えないなら見えるようにすればよい、という発想は自然である。報告の頻度を上げる、常時接続にする、行動を記録する。しかし、見える化は、管理職が強制的に見える環境をつくろうとしていると、部下に受け取られる可能性がある。

心理学には、自分の自由が制限されたと感じると、人はそれに反発し、自由を取り戻そうとするという心理的リアクタンスの理論がある[注4]。また、自己決定理論は、人の意欲が自律性・有能感・関係性の充足に支えられると説明する[注5]。見られることを強いられる環境は、自律性を損ないやすい。強制性が生まれると、人は隠したくなる。つまり、見える化を進めるほど、肝心の兆しは出にくくなる。ただし、これは理論に基づく解釈であり、個々の見える化の仕組みがどの程度そうなるかは、職場によって異なる。

管理職が先に開くと、何が起きるのか

そこで、あえて管理職側が積極的に開示する振る舞いをする。管理職が先に開くことで、部下も心を開いていく。

管理職が自分から開くことの効果を示唆する研究がある。経営幹部チームを含む調査と、リーダーを無作為に割り当てた長期の野外実験の結果、リーダーが自分の受けた批判や提案を部下に共有すると、1年後のチームの心理的安全性が高まった。一方で、リーダーにフィードバックを求めさせる割り当てでは、同様の効果は見られなかった[注6]。ここでの「求める」は自分へのフィードバックを求める行為で、業務上の相談とは異なる。それでも、管理職が先に自分を開く行為が、チームの安全性を高めるという点は、本稿の立場と整合する。

前提の反転

この発想は、前提を4層に分解して反転させる多層反転思考で整理できる。

層内容
現象画面越しでは「危なそう」という勘が働かない
構造同じ空間で自然に入っていた情報や非言語の手がかりが失われた
目的部下の困りごと・不調・停滞を、早く拾う
パラダイム(反転対象)「管理職は見て気づく」→「見えない前提で、気づける環境を設計する」

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何を、どう開くのか

管理職が開くものは、情報、弱さ・限界、日常の3つである。

施策開くもの検知できる兆し現場での問い
① 情報のオープン化情報情報不足による停滞、情報の出し渋り部下に隠している情報はないか。開示できないものの線引きを説明できるか
② 部下への相談弱さ・限界部下の専門性・意欲、反応の変化最近、部下に本当の意見を聞いたのはいつか
③ 雑談の話題振りと自己開示日常・人柄普段の様子との差分部下の普段の様子を説明できるか

① 情報のオープン化

職位が高いほど、機微な情報が多くなる。複数の部下から上がる情報を統合して、横断的に見える情報もある。経営者から示される情報も、階層を通って降りてくるため、上司のほうが情報量は多い。

ところが、いまは部下のほうがビジネススキルが高いことも珍しくない。そこで、マウントを取るために情報の出し入れをコントロールすると、部下の信頼は確実に失われる。情報の非対称性が、判断の差と信頼の差を生む。 部下は、情報が少ないぶん判断の材料を欠き、さらに、情報を握られていること自体に不信を抱く。だから、開示できる情報は、徹底的にオープンにする。

ただし、人事情報や機微情報は当然開示しない。開示できない情報があること自体を隠さず、「これは話せない」と伝えることも、線引きへの不信を防ぐ。

なお、透明性は万能ではない。管理職の透明性が心理的安全性を高めるかは、部下が他者の承認にどれだけ依存しているかによって異なり、依存度が高い部下では、むしろ逆効果になりうるという研究もある[注7]。相手の様子を見ながら、量と伝え方を調整する。

② 部下への相談

自分で解決できることでも、あえて「この件、〇〇の状況なんだけど、どうしたらいいかな?」と部下に相談する。上司のほうが詳しいはずという前提で、普段の言動をしている管理職は多い。しかし、いまは部下のほうが詳しいこともある。本当の意見を聞くことが大切である。 形だけの相談は、すぐに見抜かれる。

答えを持っていても相談することで、部下は信頼され、認められていると感じ、仲間意識も芽生える。専門スキルを持つ部下からは、自分にはない発想が出てくるかもしれない。チームビルディングにもつながる。

③ 雑談の話題振りと自己開示

チャットであっても、仕事と無関係な話題を、管理職から先に出していく。「週末に〇〇の映画へ行って楽しかった」「今朝の満員電車で〇〇(有名人)に遭遇!」といった、何でもない話題でよい。無理にユーモアを入れる必要はない。日常を共有することで、ポジティブな感情へと誘い、チームに勢いをつけることができる。

心理的安全性は、管理職の振る舞いに大きく左右される[注6]。心理的安全性とは、チームの中で対人関係のリスクをとっても大丈夫だという共有された信念を指す[注8]。静かなタイプでも、チャットのようなツールなら、一定の自己開示をしてくれることがある。現場の実感として、上司からの自己開示を続けるうちに、様々な話題を発信してくれるようになるケースは少なくない。

なお、自己開示も、相手の反応を見ながら量と内容を調整する。

集めた兆しを、どう読み、どう調整するのか

兆しは、人を類型に当てはめて断定するのではなく、心理学の理論や実験結果をものさしにして、その人の普段との差分を読み、仮説として扱う。

3つの施策を組み合わせることで、反応、言葉、間、参加の仕方といった、兆しを読むための情報が得られる。得られた情報を、心理学実験や心理学理論と対比させることで、兆しが見えてくる。次の表は、その対比の一例である。いずれも仮説の候補であり、結論ではない。

観察された変化対比する理論仮説の例次の関わり方
普段は返信が早い人が、新しい提案への返信だけ遅い損失回避[注9]変化によって失うものを懸念しているのかもしれない「何が気になる?」と、懸念を尋ねる
雑談への反応が減り、業務連絡だけになった自己決定理論[注5]自律性や関係性が満たされていないのかもしれない1対1で、業務の裁量や困りごとを確認する
相談への返答が、以前より短く無難になった心理的安全性[注8]発言のリスクを感じ始めたのかもしれない自分の失敗を先に話す。悪い知らせへの自分の反応を振り返る

もちろん、理論や実験結果どおりの言動になるとは限らない。心理学の知見は、多くが集団の傾向を述べたものであり、目の前の一人にそのまま当てはまるとは限らない。それが人間である。だからこそ、仮説を持ち、実際の言動を見て、その人の特性にチューニングしていく。この仮説、観察、調整のループが、兆しを読むということである。普段の様子を知るうえで、③の自己開示の積み重ねが役に立つ。

留意点

  • 何でも開示するわけではない。人事情報や機微情報は、当然開示しない。
  • 反応が薄いからといって、何かを決めつけない。気長に待ちながら、開示の振る舞いを続ける。
  • 兆しを拾う目的は、部下の支援である。評価や監視には使わない。
  • メンタル面の不調が疑われる場合も、診断はしない。産業医や相談窓口など、専門の支援につなぐ。
  • 管理職自身が、心の余裕を持つ努力を続けることが大切である。この余裕がなければ続かない。

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この先、何を問い直すべきか

問い直すべきは、管理職自身が、先に開ける状態にあるかどうかである。

ここまで、管理職が先に開く振る舞いを論じてきたが、それは管理職に大きな負荷をかけうる。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された調査は、中間管理職が、上司よりも、また自分のチームのメンバーよりも、心理的安全性を感じにくいことを報告している[注10]。戦略と実行をつなぐ要でありながら、最も安心して話せていない可能性がある。

そうであれば、管理職に先に開くことを求めるだけでは、続かない。経営層が問い直すべきは、中間管理職が開ける余裕を、組織が用意しているかである。経営が先に情報を開く、経営自身の失敗や迷いも語る、管理職が現場の事実を悪い知らせも含めて上げられる場をつくる。この「上への開示」が、管理職の「下への開示」を支えると考えられる。

マネジメントは、「見て管理する」ものから、「先に開いて、反応から読む」ものへ変わりつつある。顔が見えない時代の中間管理職に必要なのは、兆しを探し回る嗅覚ではなく、兆しが自然に現れる環境を設計する振る舞いである。つまり、「兆しと振る舞いのマネジメント」 である。

【注】

1)パーソル総合研究所「テレワークに関する調査(2026)」(2026年7月実施、同年8月27日発表)。報道(ビジネス+IT、2026年8月28日掲載)による。https\://www\.sbbit.jp/article/cont1/186716

2)東京都「企業の出勤状況調査(2026年5月)」(スムーズビズ登録企業約12,900社が対象、回答995社、実施期間2026年5月14日〜28日)。https\://smooth-biz.metro.tokyo.lg.jp/

3)Daft, R. L. & Lengel, R. H. (1986). Organizational Information Requirements, Media Richness and Structural Design. Management Science, 32(5), 554-571. DOI: 10.1287/mnsc.32.5.554

4)Brehm, J. W. (1966). A Theory of Psychological Reactance. New York: Academic Press.

5)Deci, E. L. & Ryan, R. M. (2000). The "What" and "Why" of Goal Pursuits: Human Needs and the Self-Determination of Behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227-268.

6)Coutifaris, C. G. V. & Grant, A. (2022). Taking Your Team Behind the Curtain: The Effects of Leader Feedback-Sharing and Feedback-Seeking on Team Psychological Safety. Organization Science, 33(4), 1574-1598. DOI: 10.1287/orsc.2021.1498

7)Leroy, H. ほか (2024). Honesty Is Not Always the Best Policy: The Role of Self-Esteem Based on Others' Approval in Qualifying the Relationship Between Leader Transparency and Follower Voice. Journal of Leadership & Organizational Studies, 31(2), 192-210.

8)Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383. DOI: 10.2307/2666999

9)Kahneman, D. & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263-291.

10)Hagen, J. U. & Zhao, B. (2025). Middle Managers Feel the Least Psychological Safety at Work. Harvard Business Review(HBR.org、2025年10月22日). https\://hbr.org/2025/10/middle-managers-feel-the-least-psychological-safety-at-work

タグ:#先回り力#兆しと振る舞いのマネジメント#多層反転思考#中間管理職#心理的安全性#リモートワーク#自己開示
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